鬼龍院花子の生涯

鬼龍院花子の生涯 [DVD]

鬼龍院花子の生涯 [DVD]

私がこの工場に転職してきた頃、私の席の隣には怒鳴る上司の娘が座っていました。彼女は私より五つか六つは年下だったと思うのですが、英語が堪能なしっかりしたお嬢さんでした。私は前の会社に十年勤めてから転職してきましたから、社会人としての経験値はそれなりにあったわけですが、華やかなIT業界から田舎の町工場という全く違う世界に飛び込んだということもあり、ほとんど右も左も解らない状態でした。ある日、怒鳴る上司の娘が、私の顔面のすぐ近くに書類を突きつけてきました。「これ、箱に入れる前に一声かけてくださいって言いましたよね」物凄く怒っていることが空気越しに伝わってきました。今となっては筋肉の量で勝る私が下手に出る必要はないと解るのですが、その時はまだ慣れない仕事に戸惑いを感じていたこともあって、彼女の迫力に圧倒されてしまいました。「あ、はい。でも、ボクじゃないです」私は生まれたての仔馬のように小刻みに震えながら答えました。すると、怒鳴る上司の娘は書類の隅を人差し指でトントンと叩きました。よく見ると、そこには小さく薄い文字で「確認」と書いてありました。それは間違いなく私の文字だったのです。「鬼龍院花子の生涯」という映画を見ました。ガサツな男の娘がバカすぎて死ぬ映画でした。ガサツな男の娘はバカでした。夏目雅子が「なめたらいかんぜよ!」と言ったとき、私は心の中で「よく言った!」と思いました。