がんばれ!ベアーズ ニュー・シーズン

高校の体育の授業でソフトボールをやる時は、必ず生徒たちが勝手にチーム分けをして試合をやっていました。私などは実力の拮抗したチーム同士で対戦した方が面白いと考える方なのですが、クラスを支配している威勢のいい奴らは、とにかく仲良しのお友達と同じチームになれさえすれば良かったようで、結果的に運動神経が良いチームと運動神経が悪いチームに分かれることになっていました。運動神経が悪いチームの人たちは全員声が小さいので、文句一つ言わずに、そのチーム分けを受け入れました。運動神経が良い人たちとチームメイトになると、ひとつひとつのプレイにかかる重圧が非常に大きなものになりますから、運動神経が悪い人たちにとっては歓迎すべきことだったのかも知れません。喋らないことで有名だった私も自然な流れで運動神経が悪いチームにされてしまいましたが、喋らないことで有名だったので、今さら何かを言うわけにもいきませんでした。しかし、体育の授業の殆どの時間を、守備位置に突っ立ったまま運動神経が良い人たちがはしゃぐ姿を見つめていると、知らず知らずのうちに心の中では激しい怒りが渦巻いてきて、頭の中は「あいつら全員ぶっ殺したほうが世の中のためになる」という恐ろしい考えに支配されてしまいます。おのずと金属バットを握る手にも力が入りました。ギリギリのところでキャッチャーのK田の頭をかち割ることを堪えて、左中間を破る三塁打を放ちましたが、そんなことでは私の心は晴れませんでした。しかし、その時、三塁を守っていた運動神経が良いチームのK助がニッコリ微笑んで「ナイスバッチン!やるじゃん」と声をかけてきたのです。『がんばれ!ベアーズ ニュー・シーズン』はオチコボレ少年野球チーム・ベアーズに酔っ払い監督がやってきて皆で頑張る映画でした。ベアーズがエリートチームを破って終わったとしてもじゅうぶん感動したと思いますが、この映画では試合の勝ち負けなんかよりも、もっと大切な物を手に入れて終わるので、夜中の一時にべろんべろんに酔っ払った恋人と「イェー!」と叫びながらハイタッチするくらい感動しました。