高校生の時のクラスメイトにア
イカワという物静かな男がいました。どれくらい物静かだったかというと、同じクラスだった一年間に一度も声を聞いたことがなく、トレードマークの
仏頂面が崩れるところを一度も見たことがないくらいでした。あまりにもア
イカワが物静かすぎるので、まだ未熟だった私は「いくらなんでも物静かすぎるだろう(笑)」と心の中でバカにしていました。自分より物静かな奴がいるという事実が嬉しかったのだと思います。夏休みに入ると、全てのクラスメイトが物静かなア
イカワのことなど忘れてしまいました。新学期が始まった時、ア
イカワの眉毛は全て剃り落されていました。この時、私は人を物静かさで判断してはいけないということに気づかされたのです。『マンハッタン無宿』は田舎者が凄いバカにされる映画でした。しかし、その田舎者というのが
クリント・イーストウッドなので、田舎者をバカにした男たちは全員殺されましたし、女たちは全員ヤられてしまいました。