ステロイド合衆国〜スポーツ大国の副作用〜

私はメロン記念日が解散するまでアイドルのファンをしていました。自宅からの応援を経て、コンサートなどに行くようになると、アイドルファンにもいろんな人間がいることが解りました。私のように脈がなさそうな女には恋をしない者、本気で恋をしてしまい苦しむ者、体を動かすためにコンサートに来ている者など。その中に、より奇抜な格好をした者が勝ちとでも言うかのような異形の者どもがいました。全身に好きなアイドルの写真を貼り付けた者、好きなアイドルの名前やアイドルに捧げるポエムが刺繍された特攻服を着た者など。常識的に考えれば、そんな姿をしていたら女にはモテません。しかし、彼らはそんなことは百も承知で、好きなアイドルに認知してもらうことに特化したスタイルを選択したのです。『ステロイド合衆国〜スポーツ大国の副作用〜』はステロイドで筋肉ムキムキになった男たちを追いかけたドキュメンタリー映画でした。ステロイド常習おっさんの上腕二頭筋は普通じゃない形に盛り上がり、あんな腕ではマトモな女にはモテないだろうと思いましたが、勇ましくポーズをとり続けるおっさんの表情は、とても満足そうで、その瞳はキラキラと輝いていました。全身写真、特攻服の者どもは増え続けました。そして、ある程度の数になると、個人の個性は集団の個性に吸収されてしまいました。