僕らのミライへ逆回転

高校生の頃、私はAという小さくて薄暗いレンタルビデオ店に通っていた。Aから南に1分ほど歩いた所には、Bという明るく小奇麗なレンタルビデオ店があり、住人のほとんどはBでビデオをレンタルしていた。レンタルビデオ店Aの店長のおっさんは、薄暗い照明の下で、いつも椅子に腰かけてダルそうに珈琲を飲んでいた。店長と話をした記憶はほとんどないが、一度だけ店長から「これは面白いよ」と、一本のビデオテープを手渡されたことがあった。パッケージには『ワンダとダイヤと優しい奴ら』と書かれていた。いつも一人で店に来ては、無言で数時間もビデオのパッケージを眺め続けている少年に、何か感じるところがあったのだろう。後に店長の映画センスの良さに気づかされることになるわけだが、その時の私は性格が難しいふりをしている薄っぺらい少年だったため、店長のココロの中を想像するだけの余裕が無かった。私は店長お薦めビデオを無言で棚に戻し、アーノルド・シュワルツネッガー主演映画『ゴリラ』をレンタルしたのだった。それからしばらくたったある日、レンタルビデオ店Aのシャッターには、閉店のおしらせが貼り出されていた。『僕らのミライへ逆回転』は立ち退かされそうなレンタルビデオ店で、ビデオが全部ダメになったので、自分たちで映画を作ってレンタルしてしまう映画でした。ほほえましい努力、どうでもいいファンタジー、調子に乗ってどんどん進む、町の人たちのココロが一つになる、などの好きな要素がたくさん入っている良い映画でした。